時々UPしている京の匠シリーズ。京都で私がインスパイアされたことなどを書いています。
今日は京都で出会った「西陣織り」の匠、平野喜久夫さんについて。
平野さんの工房にお邪魔して、実際にお話を伺い、仕事について、アートについてをじっくり聞くことができました。お話を聞きながら時にハっとしたり、深く頷いたり。色々な気付きをもらえたので、ぜひご紹介させてください。
糸が織りなす美しい芸術作品に圧倒された私は、次にこの伝統を継承される若い女の子たちに会ってさらに圧倒されて、私は何を成してきたのかな、なんてちょっと考えてしまったこの日。4か月も前のことなのに、この出会いは私の中でとても印象に残っています。
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平野さんの工房「綴上七軒工房」は、北野天満宮のすぐ近く。
「上七軒」は花街で、今でも舞妓さん芸子さんが所属するお茶屋さんが多く集まる場所です。この街をぶらぶらしていると、お着物姿の芸子さんたちにばったり遭遇できるかもしれません。
(出典:http://www.maiko-maiko.com/maiko/index.html)
(出典:http://ys-kyoto.org/kita/ni_27/)
まずは平野さんのプロフィールを紹介します。西陣織3代目。この道60年の匠です。
プロフィール
・昭和14年 京都市生まれ
・平成9年 伝統工芸士認定
・平成15年 京都市伝統産業技術功労者表彰
・平成20年 瑞宝単光章 叙勲
ご縁をいただきお会いできた西陣綴織屋三代目の平野さんは、約60年に渡り綴織りに従事されています。西陣織と言えば、金糸銀糸が豪華な高級着物の代名詞といったイメージがありますよね。
そんな西陣織ですが、実はひとまとめに表現できるものではなく、12種類もの織り方があるのだそう!これには少し驚きました。皆様、ご存知でしたか?
(1綴、2経錦、3緯錦、4緞子、5朱珍、6紹巴、7風通、8綟り織、9本しぼ織、10ビロード、11絣織、12紬)
今回、私達が訪ねた匠、平野さんの紡ぐ西陣織りは「1の綴」です。実際に工房を見せてもらいました。
普通は織物効率の良い「ジャガード機」というものを使って織られているそうですが、こちらは今でも綴機(つづればた)をというものを使っているそうです。カタコト音がして、美しい糸が重なりあっていく様子は本当に素敵でした。
ジャカード機は色を限定してしまいますが、綴機を使えば無限の色彩を使って織りものを織ることが出来るそうです。沢山の色の糸が詰まった棚も圧巻です。手間がかかる手法の方が、美しい色の重ねができるそうです。
そのひと手間が美味しくなったり、素敵になったりするのは、モノ作りの特徴ですね。
隣り合う竹管に巻かれた色糸は、良くみると微妙に違うことがお分かりになりますでしょうか。多くの色を使って紡ぎだす綴れ織りは、帯や和装小物意外に、タペストリーや掛け軸などとしても人気があるそうです。
平野さんの工房で織られたタペストリー。
絵で描くだけでも大変なのに、これを織っていると思うと、本当に根気と技術、そしてセンスのいるお仕事だなと感服です。
さらに平野さんが匠である所以のひとつ、それはこの織物が「爪」を使って織られているということです。
(出典:http://soushitsuzureen.com/guide/) (出典:http://soushitsuzureen.com/guide/) (出典:http://soushitsuzureen.com/guide/)
左右の中指の爪をヤスリでのこぎり状にして、ここに糸を引っ掛けて織りあげていくのですが、これを「爪掻本綴織」と言うそうです。
「爪掻本綴織」は西陣織の中で最も歴史があり、爪で織る芸術品と呼ばれています。
ちょうどこの日、平野さんの元には「爪掻本綴織」を継承したいという若いお弟子さんたちがいました。
この他にも、お休みの度に平野さんのもとへ駆けつけるお弟子さんたちが、日本中にいるそうです。長い間、勉強されている人は独自の西陣織を作っていて、その色合いがまたとっても素敵なのです。
カタコト織っているその様子を私はすぐ後ろで見させてもらって、私の質問にも嫌な顔せず答えてくれて。しかもその重なっていく織があまりにも美しくて私は圧倒されてしまいました。
心からここにいた若い女の子たちを応援したいと思って思わず、いつか、あなたの西陣織を買うからがんばってね!と声をかけて工房を後にしたのでした。
平野さんのお話の中で心に残っていることを備忘録として書き留めます。
・モノ作りはあくまでも、買って頂けるお客様(クライアント様)がいないと成り立たないので
・一番大事なのは、お客様やクライアントの要望を正確に表現すること
・そのあとに、自分だけしかできないオリジナルを織り込んでいくこと
・自分の「好き」なことだけを追及していたらそれは仕事ではなく、趣味の世界
・でも、ただ言われた通りのものを作るのも面白くない
・だから、お客様に買っていただける作品を精一杯作って、その中に自分だけのエッセンスを注ぎ込む
・この作品は自分しかできないよ、っていうもの。
改めてアートが作品として昇華する流れみたいなものがわかったような気がします。
何より、この世にあるたくさんの色が少しずつ重なりあって、美しい1枚の織りになっていく様子は、美しい映画のようでした。日本が誇る伝統工芸の一端に触れることができてとっても幸せな気持ちになったのと、私はなんにも生み出せてないなあ、と思わず遠くをみてしまう京都の一日でした。